営業の行動経済学

返報性の法則:お客様に選ばれる営業マンが大切にしている心構え

返報性の法則:お客様に選ばれる営業マンが大切にしている心構え

売れている営業マンに共通することが、お客様に好かれているという特徴です。営業マンが積極的に提案をしなくても、お客様の方から声をかけてくれるのです。

それでは、どのようにしてお客様と、このような関係を構築すればよいのでしょうか。それは、「お客様にメリットを与える」という心構えで営業に取り組むことです。自分が得をすることを考えずに、お客様に喜んでもらうことだけを考えるのです。

お客様から声がかかる営業マンは、一方的に商談の話をもらっている訳ではありません。それ以上のメリットをお客様に与えているのです。そしてお客様は、その「お返し」として営業マンに声をかけているのです。

人は他人に何かをしてももらったときに、自分も同じように返してあげなくてはいけないという心理がうまれます。これを心理学で、「返報性の法則」といいます。

この心理的効果は、広告やマーケティングの世界で広く活用されています。ここでは、返報性の原則が、いかに営業活動に影響を与えているかについて解説していきます。

 与えてもらうだけでは気が済まない
人は他人の好意を受けたときに、「何か御礼をしなくては」と感じる傾向があります。例えば、誕生日プレゼントです。あなたの誕生日に、同じ営業部のメンバーからプレゼントを渡されたとします。上司や後輩、同僚たちが、あなたの誕生日を祝ってくれたのです。

このとき、「自分だけプレゼントを貰うのも申し訳ない。他のメンバーが誕生日のときは、同じようにプレゼントでお祝いをしてあげよう」と感じます。これが、返報性の法則によってうまれる心理的な変化です。

また、この返報性の法則は、日常のあらゆるところで目にすることができます。例えば、デパートの食品売場です。新商品の食品を一口サイズにして、実際にお客様に食べてもらうイベントを実施していることがあります。

そこでは、食品売場の店員が、母親と一緒に来ている子供たちに積極的に試食品を勧めています。そして、試食をしてもらった後に、その母親に購入を促すのです。そうすることで、「せっかくなので一つ買っていきます」と母親が決断する確率が高まります。

これは、「子供が試食品を食べさせてもらったので、何も買わずに立ち去るのは気がひける」という心理がうまれるからです。これは、返報性の法則をセールスに活用した、典型的な例といます。

 営業マンに必要な心構え
私がIT業界で法人営業をやっていたときの話です。この返報性の法則の効果を、強く実感した出来事がありました。私は、一ヶ月に60件の訪問件数というノルマに苦しんでいました。入社したばかりで、お客様の数が少なかったからです。

そのため、一社の法人企業に対して、週に2~3回のペースで足を運ばなければいけなかったのです。ただ、アポイントをとるためには、お客様と会うための理由が必要です。ですので、アポの口実を作るのに非常に苦労していました。

このような状況の中で、ある商談でコンペになったときです。3~4社の競合相手がいたなかで、私は受注することができたのです。その御礼を伝えるために電話したとき、お客様は次のように答えたのです。

「実は他社の方が価格は安かったのです。ただ、◯◯さんは何度も足を運んでくれて、丁寧に提案してくれたので選定しました」

当時は経験が浅かったこともあり、お客様が私に発注してくれた理由が理解できませんでした。しかし、この発注は、お客様の要望に応えるために懸命に提案を続けてきたことに対する御礼だったのです。

このように、お客様は自分のために真剣にメリットを与えてくれる営業マンに対して、「何かで報いてあげなくては」という感情がうまれます。

このことから、営業マンにとって、「お客様にメリットを与えつづける」という考え方が大切であることが理解できます。売り上げや利益のためではなく、お客様に喜んでもらうことだけを考えるのです。

そうすることで、お客様から声をかけてもらえる営業マンになることができます。返報性の法則を理解することで、ようやく営業マンに必要な心構えが見えてきます。