営業の行動経済学

ジャニスの集団思考:営業組織の会議が機能しない本当の理由

ジャニスの集団思考:営業組織の会議が機能しない本当の理由

会社という組織で意思決定を行うとき、メンバーの合意を得なければいけません。そこで必要になるのが会議です。複数のメンバーが会議に集まり、賛同をとったうえで取り決めを行うのです。

しかし、全メンバーが集まって合意したとしても、正しい意思決定が行われるとは限りません。これは、集団の結束力が、正しい意思決定の邪魔をするからです。これを心理学で、「ジャニスの集団思考」といいます。

例えば、営業部のメンバーで経費削減について考えているとします。コスト削減のために、今までお客様に送っていた年賀状を廃止することが決まりました。しかし、あなた自身は、年賀状は送るべきだと考えています。

このとき、「メンバーの皆で決めた施策なので、自分ひとりが反対する訳にはいかない」という心理が生まれます。そのため、間違っていると分かっていても反対することができず、同調してしまうのです。

この集団における人間心理は、組織のあらゆるところで見ることができます。ここでは、組織における個人の心理を理解して、営業組織に必要とされる会議について考えていきます。

 「みんなが賛成したから」は間違い
例えば、営業会議で新規顧客へのアプローチ方法について議論していたとします。既存のお客様からの売り上げが下がっているため、新規顧客を開拓する方法を話し合っています。

そこで営業マネージャーは、「週に5件、新規のお客様へ訪問する」という案を出しました。しかし、複数のメンバーが次のように反対したのです。

「既存のお客様へのフォローも必要なため、新規開拓に多くの時間は使えません。1週間に5件の訪問は現実的ではないと思います」

そうすると、マネージャーはメンバーからの同意を取るために、妥協したアイデアを考え始めます。例えば、次のような内容です。

「新規開拓はすぐに成果が現れないため週に5件でも少ないくらいだ。しかし、できないノルマを設定しても意味がない。週に3回ならメンバーも受け入れてくれるだろう」

このように、効果のない施策と分かっていても、メンバーの合意を得たいがために妥協してしまうのです。そのため、本来の目的に対して有効性がないと分かっていても、そのアイデアが可決されてしまいます。

営業組織において会議をマネジメントする立場の人は、このジャニスの集団思考の影響力を十分に考慮する必要があります。メンバーから賛同を得ることではなく、営業予算を達成するという本来の目的を忘れてはいけません。

営業組織では、周囲の営業マンと足並みを揃えて働くことが求められます。そのため、新しい販売施策や戦略を考えるとき、メンバーの同意を得る必要があります。そこで必要になるのが会議です。

しかし、メンバー全員が参加したからといって、そこで可決されたアイデアが正しいとは限りません。周囲のメンバーから反対されるのを恐れて、賛同を得られやすい無難なやり方や方法論を提案しようという心理が生まれるからです。

つまり、集団の結束力が、正しい意思決定の邪魔をしてしまうのです。営業組織をマネジメントする立場にいる人は、ここで解説した集団心理を理解して、本来の目的を達成するためには何が必要かを真剣に考えてください。