営業の心理学

アンダードッグ効果:お客様に最も響く営業マンの正直な気持ち

予算達成まであと一歩、という状況で営業マンが停滞していたとします。そんなとき多くの営業マンは、値引きをしたり特典をつけたりと、注文をもらうために必死の対応を行います。しかし、このような行為は自社の利益を削るだけです。

そこで、今の提案内容を変えることなく、予算達成に近づける方法があります。それは、「営業マンの正直な気持ち」による提案です。

本来は言うべきではないお客様に、「このままだと予算達成できない」という本音を伝えます。そうすると、お客様が協力してくれることがあります。

それは、「困っている人を何とかして助けてあげたい」という感情がうまれるからです。これを心理学で、「アンダードッグ効果」といいます。アンダードッグとは、日本語で負け犬という意味です。

この効果を営業活動で応用する具体的な方法について、以下の動画で学んでください。

どんな言葉よりも相手に届く正直な気持ち

どんなに優れたセールストークよりも、本音で話す方がお客様には響くものです。例えば、次のようにお客様へ正直にお願いします。

「実は、今月の売り上げの数字が足りていないんです。そこで、この案件ですが、何とか月内にご発注をいただくことは出来ませんでしょうか」

そうすることで、「何とかして助けてあげられないか」という気持ちがお客様に生まれます。そして、あなたの予算達成に向けて協力的に動きだしてくれます。これが、「アンダードック効果」です。

これは、ある程度の信頼関係ができている、既存のお客様に限られたテクニックです。私も営業マンとして、何度もこの手法に助けられました。特に印象に残っているのが、年度末の最終日に900万円の契約をいただき、大幅に目標を超えて予算を達成したことです。

そのお客様は、3年間の継続したお付き合いのある既存顧客です。担当者とは何度も食事に行っていて、冗談でお互いの会社の愚痴を言い合ったりできる非常に良好な関係でした。

私は年度末の時点で、予算達成にあと650万円も足りず、どの商談も落とせない状況でした。このとき、次のように冗談半分で話しをしたのです。

「この案件を落とすと目標がクリアできず、来月から会社にいられないのです。だからお願いします」

そうすると、提案していた500万円の案件の他に、次年度に予定していた400万の案件まで、前倒しで発注をしてくれたのです。さらに、「いつまでに注文書を送れば、予算の締め切りに間に合うの?」と積極的に協力してくれました。

私は、とにかく担当者に感謝しました。それと同時に、驚きました。たしかに、担当者とは仲の良い関係でしたが、ここまで協力してもらえるとは思っていなかったからです。

これは、「予算が達成できなくて困っている状況」を正直に伝えたからです。そのため、お客様に「何とかして助けてあげよう」という心理が働いたのです。

何がお客様の心を動かすか

そして、驚くことに「アンダードック効果」を利用すると、お客様との信頼関係がより深まります。たとえ、契約に至らなかったとしてもです。通常であれば、「予算達成のためにお客様に助けを求めるなんてみっともない。お客様も呆れるだろう……」と考えます。

しかし、実際は逆です。その理由は、二つあります。ひとつは、営業マンが正直な気持ちを伝えたからです。

お客様は営業マンに対して、「スキがあれば売り込んでくるのではないか」と警戒心を常に持っています。その状況で、「何とか買って欲しい」と本音を伝えることで、好感を抱きます。どんな巧みな話術やプレゼンテーションよりも、「正直な気持ち」がお客様の心に一番、響きます。

ふたつ目に、頼りにされたことで、お客様の「自己重要感」が高まったからです。営業マンとお客様という関係を抜きにして、自分の価値を認めてくれたという心情が生まれます。そのため、お互いの信頼関係が深まります。

ここで解説した、「アンダードッグ効果」の効力を理解して、ぜひ実践に取り入れてください。契約を欲しいがために、こちらから値引きを打診するのは、営業マンとして無能であることをアピールしているのと一緒です。「いかにお客様の心を動かすか」を考えるのが営業の仕事です。