営業マンの仕事は、お客様対応だけではありません。営業日報や経費精算といった社内業務があります。しかし、売り上げをあげることが最大の目的である営業マンは、顧客対応に一番の時間と労力を使うべきです。
そのため、他人に任せることができる仕事には、自分の時間を使わないことが大切です。つまり、営業マンは相手に頼みごとを引き受けてもらうスキルも求められます。
他人に何かを依頼するときは、ただ単に作業をお願いするよりも、理由を付けると承諾されやすくなります。これを心理学で、「カチッ・サー効果」といいます。
理由をつけるだけで、あなたの望みがかなう
アメリカの心理学者であるエレン・ランガーが行った、有名な実験があります。図書館でコピーを取っている人に対して、先に使わせてもらう依頼をします。その際に、以下の3パータンの頼み方を試しました。
A:「先にコピーを取らせていただけますか」
B:「急いでいるので、先にコピーを取らせていただけますか」
C:「コピーを取らなければいけないので、先にコピーを取らせていただけますか」
その結果、ただ単に要求のみを伝えたAの場合では、承諾率は60%でした。しかし、「急いでいるから」という理由をつけたBのケースでは、なんと94%もの人が先にコピーを取らせてくれました。
A:「先にコピーを取らせていただけますか」60%承諾
B:「急いでいるので、先にコピーを取らせていただけますか」94%承諾
この結果は、「急いでいるので」という正当な理由を、相手が受け入れてくれたからだと考えるかもしれません。しかし、理由の中身は重要ではありません。それを証明しているのが、Cの実験結果です。
C:「コピーを取らなければいけないので、先にコピーを取らせていただけますか」
実は、依頼内容とは関係性が低い、こじつけのようなCの理由でも「93%の人が譲ってくれた」という結果が出ています。このことから、理由の正当性に関わらず、それを付け加えることに意味があることがわかります。
成果をあげるために必要な他人に依頼する力
私は社内の人間に仕事をお願いするときに、ひとつの工夫をしていました。それは、「お客様が○○なので、……」というフレーズを付け加えることです。それも、できるだけリアルに丁寧に伝えます。
例えば、次のように依頼します。
「鈴木商事の経理の村上様から、依頼を受けました。今月は締め切り日が休日のため、先行で請求書を発行してもらいたいとのことです。別の仕入れ先からも請求があるので、できるだけ早めに送って欲しいようです。お客様が急いでいる状況なので、今週の木曜日までに処理をお願いできますか」
お客様の要望を伝えることで、受け入れてもらえる確率が格段にあがります。なぜなら、お客様の声は営業マンのみならず、会社にとって最も優先するべき理由になるからです。
このように、理由をつけることであなたの要求が通りやすくなります。
全ての仕事を自分でおこなうことは不可能です。時間は限られているからです。そこで、他人に上手に頼みごとをできる技術が、仕事の成果に大きく影響します。
この、「カチッ・サー効果」による心理的動作を理解して、他人に依頼するスキルを身につけてください。