人は重大なイベントがあるときに緊張します。例えば、大学の試験やスポーツ大会の決勝戦などです。しかし、その出来事が終わると、今までの緊張が一気にほぐれ、心理的に無防備な状態になります。これを心理学で、「テンション・リダクション」といいます。
緊張(テンション)が減少(リダクション)するという意味になります。この心理的効果は、マーケティングの世界で広く活用されています。
お客様の心理にあわせたセールストーク
例えば、ハンバーガーチェーン店で支払いをする際に、次のように店員に声をかけられたことがあると思います。
「ご一緒にポテトもいかがでしょうか」
「あとプラス30円でドリンクをLサイズにすることができます」
数あるメニューの中から食事を選び、店員に伝え終えたところで「緊張」がほぐれます。このタイミングで商品を勧めることで、お客様が「YES」という確率が高くなるというわけです。売り上げの増加が見込めることから、ハンバーガーチェーン店は、このセールストークをマニュアル化しているのです。
通常の精神状態であれば、明らかな売り込みに対して警戒することができます。しかし、オーダーをして、お金を支払うという決断をした直後で気が緩まっています。そのため、「ついでに買ってもいいか」という気持ちになりやすいのです。
また、Amazonなどのネット通販で買い物をすると、次のようなフレーズを良く見かけることがあります。
「よく一緒に購入せれている商品」
「この商品を買った人はこんな商品も一緒に買っています」
この宣伝文句とともに、関連の商品が自動的に並ぶようになっています。同じ著者が書いた本や、同じジャンルの書籍が目に飛び込んでくれば、必ず意識が向きます。そのため、一緒に購入する確率が高まるというわけです。
これらは、テンション・リダクション効果をセールスに活用した典型的な例ということができます。
お客様との距離を縮める最大のチャンス
私がIT業界で営業をやっていたときの話です。提案するシステム開発などは、どれも高額なサービスばかりです。そのため、数ヶ月に及んで契約を検討するというのが通常です。
それだけに、購入を決定していただいた際は非常に気持ちが緩まります。契約が決まった途端に、お互いが仲良くなるケースも少なくありません。そこで私は、必ずオプションサービスを提案するようにしていました。
商談の緊張から解放されることで、お互いの距離が縮まります。その状況をうまく活用して、プラスアルファの提案を行うのです。
その場で即決というのは難しいですが、お客様は決して嫌な反応は見せません。次のような回答が返ってくることが多かったです。
「そうですね、まずはシステムを使いながら検討したいと思います。ぜひ、次回から提案してください。せっかく高い買い物をしたのですから、最大限に使いこなしたいと思っていますので」
このように、購入までには至らなくても、提案に対する「Yes」を貰うことができるのです。これも、テンション・リダクション効果を活用したセールス手法ということができます。
お客様の心理状況を把握することで、提案活動を有利に進めることができます。営業マンが心理学を学ぶ理由がここにあります。相手の心理にあわせて行動することが、セールスの基本であること理解しなければいけません。